失敗する生き物の「私」のための科学的なハーバード流「賢い失敗」のレシピ

失敗できる組織

「失敗は成功のもと」

何度も聞いた言葉。それは、わかってる。でも、やらかした瞬間に、そんな言葉、一ミリも役に立たなくなりませんか?

心臓がキュッとなって、頭の中で何度も再生されて、なんであんなことしたんだろうって、ぐるぐる考える。そういう経験、ありますよね。

頭ではわかっている。でも感情が追いつかない。

それは、あなたのメンタルが弱いわけでも、人間性や性格の問題でもありません。脳の仕組みが、そうなっているだけ。

今回は、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授の著書『失敗できる組織』をもとに、その「仕組み」と、失敗と賢く付き合うための「物差し」をお届けします。

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ポッドキャストはこちらからお聞きください。

目次

「最高のチーム」は、ミス報告が一番少ないチームではなかった

少し想像してみてください。

あなたの大切な人が珍しい病気になり、「優秀な医療チーム」を探す必要があるときに、どういうチームだと安心するでしょう?

普通に考えれば、「ミスの報告が一番少ないチーム」もその一つだと思います。

ところが、データが示した答えは真逆。

最も優秀だと評価されているチーム(患者の生存率が高い)ほど、報告されるエラーの数が圧倒的に多かったのです。

エドモンドソン博士たち研究者は最初、「データ収集のバグじゃないか?実験が失敗したのではないか」と本気で疑ったといいます。

でも、深く調べていくうちに、謎が解けました。

優秀なチームは、ミスの数が多いのではななく、ミスを「声に出せる環境」があっただけでした。「ミスをしたけれど、報告しても大丈夫だ」。その雰囲気が、違いのすべてだったのです。

そう、これがエドモンドソン博士が提唱する「心理的安全性」の発見だったのです。

心理的安全性とは、こんな事を言ったら笑われるかも、バカにされるかもとか、失敗をしたら怒られるかもしれない、という不安を感じない状態のこと。対人リスクをとっても安全だと感じられる環境。

Google流「完璧なチームの条件」

この心理的安全性が有名になったキッカケの一つが、Googleの研究です。

最高の個人を集めれば、最高のチームになるか?

Googleの中でパフォーマンスの高いチームを作るには、どういう条件がそろえばいいのか?という社内の180のチームを研究した、アリストテレスプロジェクト。

その中で、ありとあらゆるメンバーの個人的な条件を調べました。

例えば

  • チームメンバーの性格は、外向的か?内向的か?
  • チームメンバーは業務外でも友達か?
  • 共通の趣味を持っているか?
  • 学歴や背景が似ているか?

などなど。でも、どれだけ調べても、共通した条件が見つかりませんでした。誰をチームに配属するかを最適化しても、完璧なチームにはならない。

私もコーチングをしていると、管理職の方から「あの時うまくいったのは、チームメンバーが全員パフォーマンスが高かった」という言葉をよく聞きます。

でも、Googleでは個々のメンバーのパフォーマンスがよいかどうかよりも、もっと大きな影響があるものが見つかったのです。

それは、グループ内での暗黙のルールのようなもの。とくに2つの行動でした。

発言量の均等性

優秀なチームは、一日の終わりに見ると、メンバー全員がほぼ同じ割合で発言していた。一人だけが話し続けるチームは、集団的知性が低下しました。

高い社会的感受性

声のトーンや表情などの非言語シグナルから、他者の感情を直感的に読み取る能力。メンバーは「目から心を読み取るテスト」で平均以上のスコアを記録していました。

まさにGoogleが発見したパフォーマンスの高いチームの条件は、エドモンドソン博士が提唱する「心理的安全性」の高いチームだったのです。

Googleの「効果的なチームとは何か」を知るに分かりやすくGoogleの発見がまとめてあります。とても興味深いので、合わせて読んでみてください。

「怒らないから言ってごらん」この言葉が、沈黙を作る

あなたの家族や職場では、どうでしょう?

例えば、子どもが朝着ていた上着を着ていない。

「上着はどうしたの?」「どこで忘れたの??」とちょっと大きめの声で聞いたり

「宿題やったの?」「どうしたの?怒らないから正直に言いなさい。」とすこーし怒りながら聞いたり。

私も、父親に「怒らないから言ってみろ」と言われて、何も言えずに黙ってしまったことが、幾度となくあります。

なぜかと言うと、結局のところ、何を言っても否定されることが分かっているから。そう、言っても無駄。

部下にミスを報告させたいとき、こう言ったことがある方もいるかもしれません。

「怒ってないから、言ってごらん」

でも、なぜか部下は黙る。

それは、言葉の問題ではないから

エドモンドソン博士によると

心理的安全性は、リーダーが「言っていいよ」と許可を出すことで生まれるのではありません子どもや部下が「言っても大丈夫だ」と確信するところにあります

この違いが大きいのです。

そして、その確信は、あなたが過去に悪い報告を受け取ったとき、最初の一言で何を言ったか。その積み重ねによるそうです。

息子が何かをやってしまったと伝えてくれた時の最初の一言を、つい反射的に言ってしまいそうになるのを、一瞬間をおいてから、言葉にしようと思います。

なぜ人は失敗をこれほど恐れるの?

それにしても、なぜ私たちはこんなにも失敗が怖いのでしょうか。

失敗が大事だとわかっているのに、やらかした瞬間に体が反応してしまう

これ、意志や性格の問題ではありません。脳のハードウェアの問題、脳の設計の問題です。

人間の脳にある「扁桃体」は、脅威を感知すると即座に警報を鳴らします。これは大昔、まだ猟や狩りをしていたころの機能。

トラや狼に出くわしたときに命を守っていた、古い生存システム。今でも、夜道を歩いていてなんとなく危険を感じるとか、そういう感覚ありますよね。あの違和感探知機能です。

そして現代人にとって驚くというか、やっかいなのは、会議でのミスや人前での恥ずかしさといった「社会的な痛み」を処理する脳の回路が、肉体的な痛みの回路と重なっているという研究結果。

極端に言えば、プレゼンで失敗して心臓がバクバクしたら、ライオンに噛みつかれたのと同じようなショックを脳や体が受けてしまうということ。脳内回路の混乱ですね。

人類の長い歴史のなかで、群れからはじき出されることは死を意味しました。

だから「社会的に失敗する」こと、さらに群れから拒絶されることへの恐怖は、今も私たちのDNAに深く刻まれています。

「失敗は成長の糧」と頭でわかっていても、扁桃体がその前に「逃げろ、隠せ、黙れ」と叫んでいる。

つまり、失敗を怖がるのは、あなたが弱いとか、どこかがおかしいのではなく、あなたの脳が人間として、とてもまっとうに機能している証拠です

「失敗」を3つに分けると、見える景色が変わる

「失敗から学べ」という言葉が空虚に聞こえるのは、失敗をひとくくりにしているからかもしれません。エドモンドソン教授は失敗を3つに分類します。

① 基本的失敗

手順が決まっているのに確認しなかった、注意すれば防げたミス。新しい知識を何も生みません。防ぐべき、純粋なエネルギーの無駄です。

例えば、レシピを見ながら作っていて、お醤油の量をまちがえて3倍入れるとか、お酒をいれるところお酢をいれたとか。車のサイドミラーをついうっかりガレージの壁にこすったとか。チケットをつい忘れたとか。お客様への見積もりを一桁間違えたとか。

決まった通りにすれば問題ないのに、ついうっかりから、ちょっとした気の緩みで、やってしまったミスのこと。

② 複雑な失敗

いつも通りの道なのに、豪雨と事故渋滞が重なって遅刻した。そういう不運がいくつか重なって起きてしまった類のもの。複数の予測できない条件が重なって起きるトラブルで、個人を責めても意味がない。

病院での事故や、海難事故、会社の倒産など、うまくいっていない兆候はいくつかあったけれど、すべてのポイントで少しずつズレてしまった。

もう少しで勝てたかもしれないテニスの試合にまけてしまった。

誰かが途中で声を上げて、軌道修正もできたかもしれないけれど、すべてが悪い方へ、悪い方へ転がって大惨事になる。

そんな失敗です。

③ 賢い失敗

これだけが、積極的に「やっていくべき」失敗です。まだ誰も答えを知らない未知の領域に、ちゃんとした仮説を持って、できるだけ小さく挑んだ結果の失敗。

成功しても失敗しても、価値ある「データ」が生まれます

新規開拓や新商品開発でのトライ&エラー、新しいビジネスを試す、起業などもその一つ。新しい街へ引っ越す、転職、マッチングアプリで初めましてのデートも、賢い失敗の機会になる。

最近、我が家ではNHKのプロジェクトXをよく見ています。日本のものづくりの底力、難題に挑戦していく姿は、まさにこの賢い失敗の積み重ねのように思います。

TOTOのウオシュレットの開発で、何日もトイレに座り続けてベストの水温、水圧、角度を見つけ出したり、電動自動車の開発など、何度も失敗を繰り返し、そして完成へとつなげる姿は、本当に素晴らしいと思います。

この「失敗の物差し」を持つことで、「またやらかした」で終わらせず、「これはどのタイプの失敗か?」と問えるようになります。そこから初めて、次のアクションが見えてくる。

「失敗を恐れるな」ではなく、「どの失敗をするか、選ぶ」。

基本的失敗は、システムや構造でゼロを目指す。複雑な失敗は、「なにかおかしい」その違和感で立ち止まる。そして「賢い失敗」は積極的に生み出していく。

これが、新しい大人の失敗との付き合い方になりそうです。

科学的な「賢い失敗」のレシピ

ここで少し耳の痛い数字を紹介します。

失敗の種類を学んでもらった後に、ある研究者がリーダーたちに尋ねました。「あなたの職場で、本当に本人のせいだと非難されるべき失敗は、全体の何パーセントか?」

ほとんどのリーダーが「1〜2%くらい」と答えました。

ところが続けて「実際に失敗が起きた時に、本人のせいだと非難されているのは何パーセントか?」と聞くと、答えは「70〜90%」でした。

頭では1〜2%しか悪くないとわかっている。でも現場では7割~9割が犯人探しをしてしまう。

これでは、とても心理的安全性は育たないですよね。

映画であるようなマフィアのボスとか、時代劇やアニメの悪役のように、悪いニュースを持ってきた部下が消されたり、処罰されたりする。その記憶が一度でもあれば、次から誰も言わなくなるのは、よくあるシーンです。

現実の世界で本当に怖いのは失敗そのものではなく、失敗が「見えなくなること」

部下や子どもが、何か困っていても相談してこない。本当にどうしようもなくなるまで、黙っていたら、、、。考えるだけでも、ぞっとします。

賢い失敗のレシピ

では、賢い失敗とは具体的にどうすればできるのか。4つの条件があります。

  1. まだ誰も答えを知らない、新しい領域への挑戦であること。
  2. 何か大きな価値あるゴールにつながるチャンスであること。
  3. 闇雲にやるのではなく、「こうすればこうなるはず」という仮説があること。
  4. いきなり全財産をつぎ込まず、可能な限り小さく試すこと。

私も会社勤めの方から「ライフコーチとしていつか起業したいです。」というご相談を受けます。ほとんどの場合は、退職する前に副業でできるところまで準備しておいたほうがいい。とお伝えします。

まさに4の取れるリスクの範囲内で始めること。昨今は、オンライン上で「そんな中途半端だと成功しない」「退職してオールインでやらなきゃダメ」という煽りもありますが、正直そのリスクを取れるだけの準備がない方には、退職はすすめません。

致命傷にならない範囲のリスクをとる。その見極めも大切です。

失敗する生き物として、どうすれば成長できるのか

失敗する生き物として、どうすれば成長できるのか

この言葉は、エドモンドソン教授が30年ほど前に、優れた精神科医であってマキシー・モールツビーから聞いた言葉だそうです。

「失敗する生き物」は、相田みつをさんの「にんげんだもの」と同じ意味だと感じました。

成長は、人間は失敗するという事実を受け入れるところから始まる。

読者の方の中には、ひょっとしたら「失敗する生き物」だけど「私は、それは嫌だ」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。

「私は、理想が高すぎる」とか、「私は完璧主義だから」というときは、ひょっとしたら「失敗する生き物」であることへ、抵抗しているかもしれませんね。

そんな方は、試しに私も失敗する生き物かもしれない。それが人間かもしれない。ちょっとだけ、失敗する生き物であることを認めてみよう。

と、まるで味見するかのように、試してみてください。

そんなあなたには、エドモンドソン教授の優しい言葉を送ります。

私たちは失敗する自分を受け入れつつ、楽しく生きる姿勢を習得することができる。直感に反するかもしれないが、失敗は好機かもしれない。たとえば失敗によって、自分が磨くべき能力がはっきりする。また自分が本当に好きなことに気づくことができる。

負けないためにプレイするか、勝つためにプレイするか。

これは,ラリー・ウィルソンの問いです。

負けないためにプレーするとは自分がうまくやれそうな活動、仕事、あるいは人間関係に安住するという安全な道を採ること。

勝つためにプレーするとは、困難な目標や実りある人間関係を求めてリスクを取ろうとする姿勢。偉大な進歩や大きな喜びの一部だが、その過程では必ず挫折もある。

あなたのその行動は、負けないためですか?勝つためですか?

失敗を避ける選択。それは一見、賢く合理的な選択にも見えます。でも実際は、失敗もなく、成長もなく、成功したかもしれないチャンスを見逃し続けているのかもしれません。

最後に、この問いを一緒に考えてほしいと思います。

「失敗が怖い」というその気持ちだけで、あなたが今、見送ってしまっているチャンスは、何ですか。

失敗するのは痛い。それは動物として正しい反応です。
でも、その痛みで立ち止まってしまうのは、もったいない。

この記事は、エイミー・C・エドモンドソン著『失敗できる組織』の内容を参照して執筆しました。

この本の中には、失敗を見極めるためのフレームや、そこから成功へつなげるための考え方など、とてもたくさんの学びがありました。管理職、経営者、ライフコーチの方など、日頃失敗と向き合う機会が多い方、失敗を避けがちな方は、ぜひ読んでみてください。

ポッドキャストはこちらからお聞きください。

人生の踊り場から、次のステージへ

今、自分がどういう中年の変化の中にいるのか?ミッドライフ成熟度チェックリストを作りました。

20代、30代と同じ価値観のまま、40代、50代を過ごそうとすると、脳と心は深刻な不調をきたします。

このワークを通じて、「今、自分の中で起きている構造改革」を客観的に理解してみましょう。


それは、あなたがこれまでの経験を「知恵」に変え、より大きな影響力を発揮する「成熟した大人」へと、サナギからきれいな蝶へと変容するための、最も大切なプロセスです。

このチェックリストは、あなたの本質に寄り添いながら、次のレベルへと進むためのコンパスです。ぜひご活用ください。

ご希望の方は、メールでお送りしますので受取先のメールアドレスとお名前をご記入ください。

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この記事を書いた人

国内商社のビジネス開発・米国バイオ研究者を経て、47歳でライフコーチへ。科学的根拠と内面探究を組み合わせた、異色のコーチとして、40代・50代の変容に関わる。ポジティブ心理学・成人発達理論をベースにしたライフコーチ。アイオワの田舎で夫と息子の三人暮らし。

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